2018年 展望

 

ヨーロッパの聖堂の中で五感を通して体験されるオルガン音楽の本質を日本のコンサート・ホールで伝えるため、2001年以来美術・照明とのコラボレーションを展開している。

ここでの美術は、音楽のための単なる演出や装飾ではない。

この共同作業は、オルガン音楽がもつ「時間と空間」の象徴と人間の根源に直結したテーマの具体的表現を目指したものである。

そしてそれは更に、コンサート・ホールの特性を生かし、現代の新たなオルガン演奏の可能性を探りながら、身体表現を含む他のジャンルとの共演へと発展している。

2016年、第9回リサイタルにおいて、日本の伝統芸術(能の舞)との共演に挑んだことを機に、この一連の活動を、日本人独自の感覚をもとに、伝統文化の新たな、そして多様な「創造の場」のひとつとして世界に提案していきたいと考える。

 

 

◆グローバル化とIT化が加速する現代

 

長い歴史の間に、文化は時代の社会変化に影響を受けてきた。それは時に停滞し、淘汰され、生き残ったものが伝承され、また新しいものが生まれるエネルギーとなって発展してきた。

20世紀、2つの大戦を通して世の中は激動し、芸術の世界はその大きな影響を受けた。

音楽においても、「新しさ」を求めて様々な試みがなされてきたが、それぞれの考え方や技法は、生まれてから定着する間もなく次々と移り変わり、そのスピードは21世紀に入って増々加速している。

 

そして現代の私たちは、情報によって、居ながらにして世界の様々な文化を知ることができる。

一方で個々人は、多様化しすぎた価値観に翻弄され、自らの拠り所を失い、目に見えない不安の中で漂っているように見える

この混沌の時代に私たちは、芸術文化の役割やその可能性を、改めて考える必要があるのではないだろうか。

 

 

◆日本人に受け継がれた感覚とは

 

今日、日本人もまたグローバル社会にあって、世界の情報に晒されている。

そのような私たちに必要なのは先ず、自らが置かれている環境―代々育まれてきた土壌、歴史、教育から、現在受けている影響まで―や、日本人独特の感性を知ることであろう。

歴史的に見ると、古代中国文明に触れた日本人は、その驚きと感動を、千年の年月をかけて洗練させていった。

理論によってではなく、もっと静かな内面の秩序に照らし出し、自然と一体となった柔らかで繊細な感覚が形作られていったのである。

それは、文学に見られる「もののあはれ」という捉え方や、造形美術や建築などに結実されている。

また、1591年秀吉が身分統制令を発して以来、徳川時代まで、伝統文化(能・狂言や音楽、工芸・技術など)は、「伝承」することが最大の使命となった。

このような保守的な姿勢は、伝統芸術の分野で今日も受け継がれている。

この異文化に対する柔軟な知覚と伝承のち密さが、日本人独自の特性の一部といえる。

そして明治以降、近代化でヨーロッパ文明を浴びた日本は、現在、この長い間に形成された「日本人の感覚」をもって、新たな出会いを自らの中に取り込み、保ちながら熟成させる過渡期にあるように思われる。

 

 

◆現代の課題と可能性

 

変化の激しい時代にあって、芸術はその存在意義をしっかりと見据え、多様でありながら、人間の普遍性に結びついた活動が重要であると考える。

各文化がそれぞれの歴史の中で得た経験と現在を把握し、その相違点と共通点から「共感」を探ることを目標に、他の文化が自らの活動の「異なる視点」となるような、表現の可能性を提案していきたいと思う。         

 

細川久恵

 

 

 

 

 

 

 

  バッハ室内合唱団